interview 「流通が変わると、届く商品も変わる」 東南アジアの新しいサプライチェーンによる産直EC「SECAI MARCHE」に三井住友海上キャピタルが注目した理由 -(株)SECAI MARCHE

2024年11月、三井住友海上キャピタル株式会社による株式会社SECAI MARCHE別ウィンドウで開くへの投資が発表されました(プレスリリース別ウィンドウで開く)。同社は東南アジアにおける産直EC「SECAI MARCHE」を運営しており、生鮮食品の新たなサプライチェーンを構築するスタートアップです。

三井住友海上キャピタルの投資担当は、自身もアジアで働いた経験をもつ篠原悠子。SECAI MARCHE代表の杉山さんは「海外市場というだけで難色を示す投資家もいる中、海外経験を活かして我々を理解してくれた」と話します。

SECAI MARCHEのサービス詳細とその強みは。東南アジアの物流の現状をどのように変えようとしているのか。「流通が変わると、消費者に届く商品が変わる」という真意は。杉山亜美さんと、篠原悠子に聞きました。

三井住友海上キャピタルの篠原悠子(左)と、SECAI MARCHEの杉山亜美さん

産地を問わずに、生鮮食品を取引

最初に、SECAI MARCHEについて教えてください。

杉山(SECAI MARCHE):SECAI MARCHEは、東南アジアで生鮮食品の新たなサプライチェーンを構築している産直ECです。大型発注しかできない従来の配送網と異なり、早く、安く、少量多品種の配送が可能な共同集荷配送を強みとしています。

日本とマレーシアで同時に創業し、マレーシアにメインの拠点を設置してサービスを開始。2024年にはシンガポールでも商品提供を始めました。2025年にはライセンスアウトの形式でタイにも進出予定です。2024年12月時点で生産者の登録数は、中小規模生産者を中心に400社以上。野菜、果物、鮮魚を中心に4,000以上の商品を取り扱っています。

杉山 亜美 | SUGIYAMA Ami
株式会社SECAI MARCHE Founder / CEO

米大学で健康経営を学んだ後、日本の健康経営支援企業に就職。転職先の支援のもと2015年にマレーシアで日本茶輸入・飲食業「TEA PRESS」を開業した後、デロイト トーマツ コンサルティングで日本産農産物の輸出拡大プロジェクトにかかわる。18年、プロジェクトを協同した早川周作とともに独立、SECAI MARCHEを創業した。

SECAI MARCHEでは日本の農産物も扱っているのでしょうか。

杉山(SECAI MARCHE):我々は国や産地を問わずに取引できるプラットフォームなので、日本から入ってくるものもあれば、現地で育てているもの、中国やオーストラリア、タイから入ってくるものもあります。

その中で日本産は、おしなべて高価格・高品質なものが多いですね。気候や土壌の関係で現地では育てられない果物や根菜類も少なくありません。

篠原(三井住友海上キャピタル):外国産と比べて、日本産の果物はイチゴやぶどう、リンゴなど、見た目がきれいで、味が濃くて、美味しいですよね。

杉山(SECAI MARCHE):そうですね。サツマイモなども、日本産のものは甘くて美味しく、人気があります。

日本国内の生産者は、東南アジアへの販売に関心があるのでしょうか?

杉山(SECAI MARCHE):国が日本の農作物の輸出に目を向けている、国内での需要や価格が下がっているという事情などもあり、海外に目を向けている生産者は増えています。

とはいえ、これまで日本はヨーロッパやアメリカを最初の輸出先候補としてきました。ただ、欧米の次のターゲットとして、近年は東南アジアも候補に入っています。人口も増えていますし、EC市場も成長していますからね。

篠原(三井住友海上キャピタル):日本産の農作物は現地で買うと高級品の部類になるケースも多いですが、現地の人々の購買力が上がっているため、今はアジアもターゲットにもなりつつありますよね。

篠原 悠子 | SHINOHARA Yuko
三井住友海上キャピタル株式会社 投資部 マネージャー

米国大学院を卒業後、国際協力機構(JICA)にて、インドやフィリピン等の開発途上国政府向け融資や、東南アジアにおける民間企業向け投融資に従事。主に保健医療や都市鉄道等の分野を担当。2018年よりインドに駐在。2022年当社に入社。社会課題の解決に取り組み、チャレンジし続ける起業家を支援している。

マレーシアのトップレストランに選ばれる理由

SECAI MARCHEの商品を購入しているのは、どういったところでしょうか。

杉山(SECAI MARCHE):2025年1月現在、SECAI MARCHEは約1,500のホテルやレストランにご利用いただいています。特にマレーシアのトップ100 レストラン・ホテルの90%以上に利用されているのが特徴です。その理由は主に3つあります。

まずは品質。SECAI MARCHEは中間業者を通さずに産地から店舗まで最短で商品を運ぶので、収穫してから届くまでの時間が非常に短いのです。注文から24時間以内に商品が届くため、圧倒的な品質の商品が手元に届きます。

東南アジアの既存流通は間に4〜5社が入る分時間がかかりますし、またコールドチェーンが発達していないので、流通はすべて常温なんです。一方SECAI MARCHEは独自のコールドチェーンを敷いていて、適切な温度管理を実施しています。従来の流通ではレタスは消費者に届くまでにシナシナになってしまいますが、SECAI MARCHEならシャキシャキのレタスを用意できます。

篠原(三井住友海上キャピタル):私は前職がJICA(国際協力機構)で、東南アジアやインドなどに仕事でよく行きましたが、現地の野菜がシナシナというのはよくわかります。

杉山(SECAI MARCHE):2点目が、品揃えです。中間業者をいくつも経る既存流通では「このトマト」と「あのトマト」の違いを区別してくれません。「トマトなんだからいいだろう」「安ければいいだろう」といった感覚なのです。

しかしSECAI MARCHEは、生産者一人ひとりの顔が見えるようにして「このトマト」と「あのトマト」を品種や規格で区別して販売しているので、レストランが自らのニーズに合った商品を購入できるようになっています。

最後に、価格。SECAI MARCHEは新鮮な商品ばかりを届けられるので、従来の流通より廃棄率が下がるんです。また先述したように中間業者を排しているため、その分のマージンも必要ありません。結果として商品の価格が抑えられています。

流通が変わると、消費者に届く商品が変わる

三井住友海上キャピタルとSECAI MARCHEの出会いについて教えてください。

篠原(三井住友海上キャピタル):イベントでピッチしているのを見て、これは面白いと思ってコンタクトを取りました。

ただ当時のSECAI MARCHEのターゲットはハイエンドのホテルや飲食店で、ミドルはこれからという状況。今後の見通しが判断できず、その時点では投資できなかったんです。その後、定期的に情報をアップデートいただいて、ミドルも順調に伸びつつあるということで、改めて検討し、投資に至りました。

SECAI MARCHEのどこに競争優位性を感じたのでしょうか。

篠原(三井住友海上キャピタル):東南アジアの既存流通に課題がある中で、生鮮食品の新しい流通を作るという価値提供に魅力を感じました。具体的には、高鮮度、低価格、オンラインで注文して翌日には店頭に届く利便性、それらを実現するためにゼロから構築したフルフィルメント機能などです。生産者を一つひとつ開拓して直接仕入れ、需要側のニーズをフィードバックできている点も、他社が容易に真似できない同社の強みだと感じています。

東南アジアの流通は、日本と比べてどのような違いがあるのでしょうか。

杉山(SECAI MARCHE):日本では生肉を常温で流通させることはまずありえないですよね。でも東南アジアでは常温で流通しています。日本の夏みたいな高温多湿な気候で、日本のクール便のようなものはないのに、普通の郵便で、です。その代わり、調理は高温で何分も揚げたり、肉が硬くなるまで炒めたり煮込んだりしています。

篠原(三井住友海上キャピタル):一般的なお店では生野菜のサラダは出さないし、野菜も全て熱を通していますよね。

杉山(SECAI MARCHE):そうですね。こんな状況なので、高級料理店やホテルなどは、新鮮な生鮮食品が手に入らなくて困っているんです。マレーシアでも単価1万円以上の高級店は200店舗くらいしかなく、そのためにサプライヤーが流通を整えることもありませんでした。

(提供:SECAI MARCHE)

杉山(SECAI MARCHE):また日本は市場機能がしっかりしているので、商品が市場に効率的に集まってきて、そこで価格がある程度調整され、仲卸業者が必要なものを必要なところに届けるという仕組みが整っています。

一方で東南アジアの流通はかなり細分化されていて、市場は効率的に機能していません。

そんな中、自社でコールドチェーンも開発し、自社のサプライチェーンを築いていることが強みになっているんですね。

杉山(SECAI MARCHE):その通りです。実は私にとってSECAI MARCHEは2社目の起業なんです。以前は東南アジアで飲食店を営んでいたので、ある程度の流通事情はわかっているつもりでした。

しかしいざSECAI MARCHEを始めてみると、どうしても既存業者は満足の行く流通手段とならなかったんです。フルフィルメントを自分たちでやらないと、理想のSECAI MARCHEにはならない。そう考えて自社でコールドチェーンの開発を始めました。最初からこんなに大変だと知っていたらやらなかったかもしれません(笑)。

篠原(三井住友海上キャピタル):東南アジアで自社のサプライチェーンをゼロから構築することは本当に大変だったはずです。一見シンプルなビジネスモデルに見えて、裏では複雑なオペレーションを、テクノロジーを活用して最適化している。これが結果的に他社が容易に真似できない参入障壁となり、SECAI MARCHEの強みになっていると感じます。

杉山(SECAI MARCHE):流通が変わると、消費者に届く商品が変わるのは面白いですよね。

中間流通が何社も入って、扱いも雑だと、農家は熟していない緑色のトマトを出荷せざるを得ないんです。当然、トマトの糖度は全然ありません。

杉山(SECAI MARCHE):しかしSECAI MARCHEは、産直で24時間以内に目的地まで商品を届けますし、コールドチェーンがあって丁寧にハンドリングするとわかっているから、農家は最も美味しい状態のトマトを出荷してくれるんです。SECAI MARCHEでトマトを買うと、「マレーシアのトマトってこんなに甘かったんだ」なんて声が聞こえてきます。

このように、消費者に新鮮なトマトが届くようになると、値段も適正化されていき、美味しいものにはちゃんと対価を払う文化が形成されていくはずです。マレーシアにも数年前からミシュランが進出したりして、外食産業のレベルが上がり始めている。これは生産者にとっても嬉しいことだと感じています。

流通だけでなく、生産者を総合支援するプラットフォームへ

投資をする際に苦労したことはありますか?

篠原(三井住友海上キャピタル):東南アジアではサプライチェーンが未整備で、流通過程に様々な中間業者がいるため、生産者から消費者に商品が届くまでに3~4日はかかります。しかも高温多湿なのに、適切な温度管理・品質管理がなされず、商品を運んでいる間に鮮度が落ち、結果的に葉物野菜などの廃棄率は50%以上と非常に高くなっている。つまり、生産者がせっかく作った農作物の半分以上が流通過程でダメになってしまうんです。

私はアジアに駐在していたこともあるので、この現状を杉山さんから聞いて「さもありなん」と感じました。しかし日本はサプライチェーンがしっかりしていて適切な温度管理・品質管理が当たり前なので、廃棄率50%以上というのは信じられない方も多いようです。こんなに発展して高層ビルもたくさんあるようなマレーシアやシンガポールで、本当にそんな現状なのかと。

杉山(SECAI MARCHE):確かに、東南アジアはもっと進んでいるイメージがある、とは色んな方に言われますね。

篠原(三井住友海上キャピタル):社内でSECAI MARCHEへの投資についてプレゼンしたときも、最初は信じてもらえませんでした(笑)。それで杉山さんに、既存流通で冷凍の鶏肉が常温で運ばれて配送トラックの中で溶けている様子など、現地の写真をいただいたりして説明し、投資に漕ぎ着けました。

杉山(SECAI MARCHE):海外市場というだけで難色を示す投資家もいる中で、篠原さんは海外経験もあって、最初から理解する姿勢でいてくれたのは、ありがたかったです。

投資後、三井住友海上キャピタルは資金面以外でSECAI MARCHEのサポートをしていますか?

篠原(三井住友海上キャピタル):投資してからまだ日が浅いのですが、親会社である三井住友海上の保険を紹介したり、親会社の顧客ネットワークを通じて、東南アジアへの農作物輸出に関心がある自治体や地方銀行などをご紹介したりしました。

杉山(SECAI MARCHE):輸出に関心のある事業者は日本でも増えています。ただ日本はアメリカや中国と異なり、小規模農家が多く大量出荷ができないため、商社経由での取引が難しいことは少なくありません。

篠原(三井住友海上キャピタル):SECAI MARCHEは、1箱、1パックからでも出荷できますよね。生産者はできた農作物を東京の倉庫に送るだけで、あとはSECAI MARCHEが梱包から関税、現地での販売、配達まですべてを代替してくれる。日本の小規模農家が自身ですべてに対応するのはハードルが高いですが、SECAI MARCHEを通せば国内取引と同様に輸出できるのだから、すごいですよね。

杉山(SECAI MARCHE):そうですね。日本全国の農家の作物を、日本でまとめて梱包して輸出しているので、SECAI MARCHEの東京の倉庫に送ってもらえさえすれば、リンゴ1個から輸出できる体制になっています。

篠原(三井住友海上キャピタル):さらっとおっしゃっていますが、本当にすごいことをしていると思います。

今後も自治体や地方銀行だけでなく、事業会社や物流系など、何かニーズがあればご紹介しますし、できることはなんでもやりますので、遠慮なくおっしゃってください。

杉山(SECAI MARCHE):はい、よろしくお願いします。

最後に、SECAI MARCHEの中長期的な展望を教えてください。

杉山(SECAI MARCHE):今、SECAI MARCHEは毎年200%程度で成長し続けられています。マレーシアを中心にシンガポールが始まり、タイも始まり、倉庫の拡張も決まりました。これだけでも市場は十分にあると思っているので、まずはここで引き続き頑張っていきたいです。

杉山(SECAI MARCHE):また、今は生産者に商流・物流を提供するプラットフォームとなっていますが、他にも例えばモノやお金、ファイナンスを生産者向けに提供する可能性も探っています。売り先に関しても、今はBtoBが中心ですが、長期的にはBtoCにも取引を広げていきたいですね。

杉山さん、篠原さん、本日はありがとうございました。三井住友海上キャピタルはこれからもSECAI MARCHEを応援していきます。

(取材・執筆:pilot boat 納富 隼平、撮影:ソネカワアキコ)